〈 主 旨 〉
令和5年度島根県障がい者アート作品展 は、文化芸術活動を通じた障がい者の自立と社会参加を推進しています。この度のアート作品展にご応募いただいた作品を審査し、受賞作品を掲載させていただきます。
[ 主 催 ] 島根県 / 島根県障がい者文化芸術活動支援センター アートベースしまねいろ
[ 協 力 ] 社会福祉法人 島根県社会福祉協議会 / 島根県知的障害者福祉協会 / 島根県立大学・島根県立大学短期大学部
[ 後 援 ] 公益財団法人しまね文化振興財団 / 島根県障害者社会参加推進センター
[ お問い合わせ先]
島根県障がい者文化芸術活動支援センター アートベースしまねいろ
〒695-0024 島根県江津市二宮町神主1964番地31(社会福祉法人いわみ福祉会 総合福祉施設ミレ青山内)
℡080-5756-3225(担当:渉/三澤)Fax0855-54-3101 Mail: artbase@shimaneiro.jp
受 賞 作 品
全 体 講 評
福井 一尊
今年で13年目となりました本展審査会が県内全域から集まった380点の作品によって実施でき、こうして島根県立美術館という県下最高の舞台で展覧会を開催できます事に、大きな喜びと、関係の皆様方への感謝の気持ちで一杯です。この取り組みは、作者の表現活動にスタートし、それを公開審査して作品展を開催し、関係者セミナー等を経て、また作者の表現活動に返っていくという循環的活動としております。今回の審査会では、全県内で表現活動が活性化し、支援する方々とのコラボレーションがレベルアップしていることが実感できました。本展が着実に進化させられていることに大きな手応えを感じています。
今年の入賞作品は、バラエティーに富んだ世界観を有し、いずれも魅力に溢れています。入賞からは漏れてしまった多くの作品からも、豊かな色彩や形の面白さ、バランス、伝わってくる作者の成就感により、審査を進める私の心は躍りました。そのような中でも金賞となりました佐々木綾乃さんの「あたらしい ぬりえ」は、色彩の組み合わせ方と、その色の鮮やかさで心地よい揺らぎを生み出した傑作です。和紙に描いているが故に、色ごとの重なり合いがとても美しく、不安を一切感じさせることなく、楽しい気持ちにしてくれます。また同じく金賞の岡田卓巳さんの「無題」は、絵でありながら動きを感じる、焦点の絞られた心地のよい作品です。色鉛筆による深みのある色の組み合わせ、重なり合い、スピード感を是非近くでご覧ください。
今回の審査会で全審査員が共通して感じたことの一つに、「小さくまとまった作品が多いのでは」という課題があり、私たちの生活が長かったコロナ禍によって、コンパクトに過ごすことの心地よさに押し込められたままなのかもしれません。当然作品が大きければ美術作品として良いというわけではありませんが、自分の感情をバーンと素材や色にぶつけていく心地よさもあるのです。それが、ヒトが人間になってからずっと続けてきた表現活動の大切な側面なのでしょうから、しっかり保障していきたいと願います。作者の生(き)の表現とは何か、ということを今一度大切にしていくことで、制作する意義と、作品の訴求力が益々高まり、廻って障がい者理解にも繋がって行くのだろうと思います。
最後に、日々の表現活動に寄り添う支援者の皆様のセンスと意欲に畏敬の念を感じるとともに、本展にご来場いただいた皆様が作者に身を重ねる思いで、一つ一つの工夫、その作品が生まれた瞬間の生の輝きに共感して楽しんでいただけますことを願ってやみません。
櫛野 展正
障害のある人にとって、自ら画材を準備して作品制作を行ったあと、公募展へ自分で応募することができるような人はごく僅かだろう。そのため、制作や発表時においては、それをサポートする人たちの力が必要になってくる。しかし、問題はその介入度合いだ。
本公募展でも、支援者が思い描くゴールに向かって誘導するような作品が多く見られた。ある福祉施設やアトリエでは、ひとりの支援者の思いが反映されすぎるあまり、同じ画材を使った類似作品が並んでいたことには疑問を呈さざるを得ない。そうした意味では、金賞を受賞した佐々木彩乃さんが、いかに心地良い環境で絵を描くことができるかに尽力した「Atelier Sunoiro」のサポートには敬服してしまう。
振り返ってみると、障害のある人にとって、日々の暮らしの中で自らの意思で何かを選ぶことができる機会は未だ少ない。でも、創作の時間だけは別なのだ。自分が塗りたい色を選び、描きたいものを描く。そうした機会まで奪ってはならないと思う。
廣田 理紗
小ぶりな作品が多い印象だったものの、いずれも力作揃いで、選考には大変苦慮した。初めて参加した審査会で、制作の陰に支援者(施設の職員や家族など)の存在があること、関わり方は作者本人の障がいの度合いや、本人と支援者との関係に応じて様々あるということなど、作品そのもののみならず、作品の成立背景についても初めて知る貴重な機会となった。画材や制作道具、額装については支援者の提案や支給によるところが多く、作者の制作動機や意図、描き方と合致し、意欲を刺激できればより豊かな表現となることも感じられた。
入選作品は色の面白さをそれぞれに扱った作品が多く、画材の特性が作品に面白さや特徴を与えているものが選ばれたように思う。個人的には、画面に余白の少ない作品がほとんどであったことが印象深く、余白の使い方に工夫の見られる作品にも今後注目していきたい。
大下 弘之
アート展に寄せられた多数の作品に接し、作者の個性、好きなこと、思い、暮らし、普段見ている景色など様々な一面を垣間見ることができた。アートの素晴らしさとともに、障がいのある、なしを超えて人ひとりひとりが無限の可能性を有していること、そのことを認め合うことの大切さにあらためて気づかされる機会となった。
そして、このアート展の最大の見どころは、「楽しさ」。ぜひ、多くの方に会場まで足を運んでいただき、様々な想像を巡らせながら、多彩な作品に触れ、楽しいひとときを過ごしてもらえたら嬉しい。
最後に、このたびの展覧会の開催に当たり、会場までお越しいただいた方をはじめ、様々な形で御協力いただいた多くの皆様に感謝を申し上げます。
髙岩 綾子
審査会では毎年素晴らしい作品が多く、選考には本当に苦労するが、1日かけて先生方の意見をいただきながら決めさせていただいた。本展は、障がいのある方達が創造力や表現力を通じて作品を発表する場を提供することを目的としている。単なる芸術鑑賞だけでなく、障がいのある方達と社会の架け橋となる場でもある。作品から背後にあるストーリーやメッセージにも気づいていただければ幸いであり、独創的な感性や力強いメッセージは、私たちに勇気や感動を与えてくれる。
本展では、鳥取県の「あいサポート・アートセンター」のご協力を得て招待作品の展示も行うので、3日間のアート作品展を楽しんでいただき、さらに2月には受賞作品を巡回展として島根県立石見美術館でも開催するので、ぜひ東部・西部地域にかかわらず、たくさんの皆様にご来館いただきたいと願う。最後に、本展の開催に尽力していただいた関係者の皆様、作品を製作していただいた皆様に心から感謝の意を表します。